2019-11-10

サウジアラムコの銘柄分析、世界首位の石油会社は財務も最強

サウジアラムコがサウジアラビア証券取引所で上場することを発表し、新規株式公開(IPO)に関する目論見書を公表しました。公開された2016年から2018年までの財務データを利用し、銘柄分析を行いたいと思います。なお、2019年については公開されている上半期のデータを用い、私が保守的に推定した参考値です。

銘柄分析

1933年創業のサウジアラビアの国際石油資本。保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量ともに世界最大となっています。

営業利益率60%はIT企業並み

上場前の数年間のデータなので、今後の推移を予測するには不十分です。しかし、それを差し引いても、営業利益率60%を少なくとも3年間続けているというのは脅威です。高収益のビジネスモデルで有名なアリババアルファベットでさえ営業利益率は30%前後です。

エクソンモービルを遥かに上回る利益率

石油メジャー4社と2018年の業績を比較したものです。売上はロイヤルダッチシェルペトロチャイナの中間にあり、特段目を見張るものではありません。しかし、前述のとおり利益率で他を圧倒しています。

サウジアラムコの営業利益は212,908百万ドルです。これはロイヤルダッチシェル、ペトロチャイナ、BP、エクソンモービルの営業利益の合計85,965百万ドルの2.5倍の水準です。

※1ドルを3.75リヤル、7.07元で換算。

BPSとEPSは横ばいを見込む

1株あたり純資産(BPS)、1株あたり利益(EPS)も業績の推移と同様に上昇傾向です。上場を前に右肩上がりの業績を描いていますが、2019年の業績は保守的に見て、横ばいとなるのではないかと見込んでいます。

利益の過半数以上を配当へ回すと約束

目論見書には安定的な配当と増配で株主還元する配当政策を採用することが明記されています。そのうえで、2020年から2024年までは少なくとも年間750億ドルの普通配当を約束。これに加えて特別配当の可能性も示唆しています。これを基に2019年の予測配当を以下のグラフに入れました。配当性向は50%から70%で推移するのではないかと思われます。無理のない範囲での配当政策です。

なお、国営企業であるため2016年と2017年は政府への配当、2018年は株主配当としてキャッシュフロー計算書に計上されています。

株主還元は配当で実施

優良企業は配当と自社株買いで株主還元を行います。サウジアラムコの場合、当面は配当での株主還元が中心となるのではないかと思われます。

石油メジャーが足元にも及ばないキャッシュフロー

安定的にフリーCFを稼ぐことができるビジネスモデルです。営業CFやフリーCFだけを見れば、エクソンモービルロイヤルダッチシェルなども健闘していると見えます。しかし、営業CFM(営業CFの売り上げに対する比率)が30%を超える水準にあることは、業界で圧倒的な競争力を持つことを意味しています。石油メジャーの営業CFMが15%に満たない水準であることを鑑みれば、30%というのが如何に突出しているかがわかります。業界の「元締め」といった立ち位置が垣間見れます。

IT企業並みの収益性と高い財務健全性

収益性と自己資本比率もオールドエコノミーの水準ではありません。石油メジャーのROEは10%前後、自己資本比率は50%前後です。それに比べ、サウジアラムコはROEが40%前後、自己資本比率が70%超の水準にあります。原油価格の下落によって収益性は悪化したはずですが、IT企業並みの収益性と極めて健全な財務体質を持っています。

株価と投資指標の試算

2019年の業績予測として推定した投資指標を用い、株価や時価総額の妥当性をシミュレーションしました。まず、配当利回りをエクソンモービルと同等の水準と仮定すると、時価総額は1.6兆ドル、PERは16倍となります。一方、ロイヤルダッチシェルエクソンモービルのPERが10倍から15倍であることを鑑みれば、より高い利益率を持つサウジアラムコはPERは20倍の水準まで買われる可能性もあります。この場合、妥当な時価総額は2兆ドル前後となります。

株価(SAR)時価総額(兆ドル)PBRPER配当利回り
40.002.137.8121.743.53
35.001.876.8419.024.03
30.001.605.8616.34.70
25.001.334.8813.595.64
20.001.073.9110.877.05
15.000.802.938.159.40
10.000.531.955.4314.10

※BPSはSAR5.12、EPSはSAR1.84、DPSはSAR1.41と仮定。

投資方針

分析前に想定した以上に、競合他社を圧倒する利益率とキャッシュフローを有しています。配当政策を明示したことで株価の下支えとなることも考えられます。当面はサウジアラビアの国内市場における取引を静観し、日本やアメリカの証券取引所へ上場した折にはポートフォリオに組み込みたいと考えます。

現時点では時価総額2兆ドルはやや高く、1.5兆ドルは妥当、1兆ドルは安すぎると考えています。いずれにせよ、上場当初より世界一の時価総額を誇る企業となりそうです。

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